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日本のバスの車内で座席に座る乗客

日本の公共マナー

法律・条例・地域のお願いという3つの層に分けて、たばこ、エスカレーター、写真、富士登山、チップまで、根拠と結果がわかる形で整理します。

約13分

日本の「マナー」として紹介されることの中には、法律で決まっているもの、自治体の条例で決まっているもの、そして地域の人たちのお願いが混ざっています。どれに当たるかで、守らなかったときに起きることも変わります。この記事は、その区別がつくように書いています。

はじめに:この記事で分かること

観光の場面で実際に問題になりやすいのは、たばこ、路上での飲酒、写真、登山の入山規制のように、書かれたルールがあるものです。反対に「日本ではこうしてはいけない」と広く言われていても、法律にも条例にも根拠がないものもあります。

ここでは前者を中心に、根拠と、守らなかったときにどうなるかまで示します。後者については、それが規則ではないことをはっきり書きます。そのほうが、覚えることが減ります。

ルールは3つの層に分かれる

守らなかったとき
法律(全国共通)屋内の禁煙(改正健康増進法)過料。個人は最大30万円、施設の管理権原者は最大50万円。まず指導が行われる
条例(自治体ごと)路上喫煙の禁止、路上での飲酒の時間帯規制、エスカレーターでの立ち止まり過料をその場で徴収する自治体もあれば、罰則を定めていない条例もある
お願い(法的な根拠なし)地域の協議会や商店街が掲げる看板、施設の掲示法的な徴収はできない。ただし私有地では民事の問題になりうる

この3層を知っていると、看板の意味が読めます。たとえば京都・祇園の私道に立つ「罰金1万円」の高札は、地元の祇園町南側地区協議会という民間の団体が設置したもので、京都市の条例に基づくものではありません。罰金は国か自治体でなければ科せないため、この1万円は法的に徴収できるものではなく、抑止のための掲示です。とはいえ私有地に無断で入ること自体は民事上の問題になりえます。京都市自身の取り組みは多言語の看板やマナー啓発が中心で、市のページに過料や罰金の記載はありません。

寺社の境内に続く参道
同じ場所に、法律・条例・地域のお願いが重なっていることがある

日本で気をつけたい7つのこと

1 たばこは吸える場所が決まっている

屋内は法律で決まっています。改正健康増進法が2020年4月1日に全面施行され、多くの人が利用する施設の屋内は原則禁煙になりました。吸えるのは、構造的に区画された喫煙室の中だけです。喫煙室には4種類(喫煙専用室、加熱式たばこ専用喫煙室、喫煙目的室、喫煙可能室)があり、飲食できるかどうかが異なります。学校・病院・保育施設・行政機関は敷地内禁煙で、屋内に喫煙室を設けられません。20歳未満は、従業員であっても喫煙室に入れません。

小さな居酒屋やスナックにいまも喫煙できる店があるのは、経過措置の「既存特定飲食提供施設」に当たるためです。2020年4月1日時点で営業しており、資本金5,000万円以下、客席面積100平方メートル以下という3つの条件をすべて満たす店に限られます。喫煙できる場所には標識の掲示が義務づけられているので、入口の表示で判断できます。

路上は自治体ごとです。全国一律の路上喫煙禁止はありません。

  • 東京都千代田区:2010年4月1日から区内全域が路上禁煙地区。条例上は2万円以下の過料で、実際には2,000円が適用されています。2024年11月1日から加熱式たばこも過料の対象です
  • 大阪市:2025年1月27日から市内全域に広がりました(それ以前は6地区)。過料1,000円をその場で徴収します。加熱式たばこも対象です
  • 京都市:2007年6月1日から屋外の公共の場所での喫煙を禁止。1,000円の過料を徴収するのは、市中心部・京都駅周辺・清水寺/祇園周辺などの「路上喫煙等対策強化区域」の中だけです
路上喫煙禁止の表示がある通り
路上のルールは自治体ごとに違う。区域の表示を確認する

2 エスカレーターでは歩かず立ち止まる

「東京では左、大阪では右に立ち、反対側は歩く人のために空ける」という説明をよく見かけますが、これは現在の公式の呼びかけと逆です。

埼玉県は2021年10月1日に施行された条例で、利用者は立ち止まった状態でエスカレーターを利用しなければならないと定めました。名古屋市も2023年10月1日施行の条例で、右側か左側かを問わず立ち止まることを求めています。

鉄道事業者の側も同じ方向です。「歩かず立ち止まろう」キャンペーンの2026年版は7月21日から8月31日まで、JR東日本を中心に鉄道58社と7団体が参加して行われています。2025年版には大阪メトロ、阪急、阪神、京阪、南海、近鉄も名を連ねました。関西でも、事業者は「歩かないでほしい」と呼びかけています。

3 路上での飲酒に時間帯の規制がある区域がある

渋谷区は2024年10月に施行された条例改正で、渋谷駅周辺の指定区域における路上と公園での飲酒を、年間を通じて18時から翌5時まで禁止しました。それまではハロウィーンと年末年始に限った規制で、対象の区域も広がっています。区のページに罰則の定めは書かれていませんが、規制されていることに変わりはありません。

買った飲み物は、店内か宿に戻ってから開けてください。

4 食べ歩きは違法ではない。ただし場所は選ぶ

「日本では歩きながら食べてはいけない」という説明が広まっていますが、これを禁じる法律も、罰則のある条例もありません。

よく引き合いに出される鎌倉市の条例(2019年4月1日施行)は、他人の衣服を汚すおそれのある食べ歩きを含む9つの迷惑行為を挙げていますが、市自身が「食べ歩きを禁止するものではない」「罰則はない」と説明しています。観光地で見かける「食べ歩き禁止」の掲示の多くは、商店街や寺社が自分の敷地や通りについて出している私的なルールです。

判断の基準は「法律かどうか」ではなく、「そこが誰の場所か」「人が多いか」です。掲示があれば従い、混雑した通りでは立ち止まれる場所まで持って行けば十分です。

屋台が並ぶ通りで食べ物を手にする様子
掲示があるかどうかと、そこが誰の場所かで判断する

5 写真は「そこが誰の場所か」で決まる

撮影が問題になるのは、多くの場合そこが私有地や生活の場だからです。

京都・祇園の私道には、2024年4月から5月にかけて「通り抜け禁止」の掲示が加わりました。撮影禁止の掲示は2019年ごろからあります。どちらも地元の協議会が私道について出しているもので、市の条例ではありません。

鎌倉市の条例は、通行を妨げるような撮影や、線路に近づいての撮影を迷惑行為として挙げています(罰則はありません)。小樽市は、路上駐車・道路上での撮影・私有地への立ち入りが問題になったことを受け、2026年1月10日から船見坂など4か所に警備員を配置しています。

住宅街や参道では、掲示がなくても、そこに暮らす人の通行が優先されると考えて動くのが安全です。

6 富士山に登るなら入山ルールを先に確認する

2026年シーズンの富士山は、4つの登山道すべてで1人1回4,000円がかかります。ルールは県ごとに違います。

  • 山梨県側(吉田ルート):7月1日から9月10日。14時から翌3時までゲートは閉鎖されます(山小屋の宿泊者を除く)。1日4,000人の上限があります(山小屋の宿泊者を除く)。5合目で装備の確認があり、必要な装備がないと通行を断られることがあります。事前予約は推奨で、必須ではありません
  • 静岡県側(富士宮・御殿場・須走):須走は7月1日から9月10日、富士宮と御殿場は7月10日から9月10日。事前のeラーニング受講と確認テストの合格、14時から翌3時の入山には山小屋の予約、そして通行料の支払いの3つが必須です。登録は「静岡県FUJI NAVI」アプリで行い、QRコードのリストバンドが入山証になります。現地での登録もできます

装備の確認とeラーニングは2024年以前にはなかった仕組みです。以前に登ったことがある人ほど、確認しておいてください。

7 チップは渡さなくてよい

日本にチップの習慣はありません。日本政府観光局(JNTO)の説明も「習慣ではない」というもので、渡すと相手が戸惑うことがある、という書き方です。「侮辱になる」という説明も見かけますが、公的な出典はありません。

支払うのは請求書に書かれた金額です。JNTOは、レストランではサービス料が最終的な請求に加算されるのが一般的だとしています。心づけを渡す場面では、現金をそのまま手渡すのではなく、封筒に入れて目立たないように渡します。

罰則のない「お願い」——電車、ごみ、トイレ、宿

ここまでは、書かれたルールの話でした。ここから先の4つは、法律にも条例にも根拠がなく、守らなくても過料を取られることはありません。3つの層でいえば、いちばん下の「お願い」に当たります。それでも書いておくのは、旅行中に実際によく聞かれるのがこの4つであり、どれも「自分のあとに来る人がどうなるか」だけで説明がつくからです。理由が分かれば、細かい作法を覚える必要はありません。

電車とバスの中

通話は降りてからにして、着信音は鳴らない設定にしておきます。車内は座席が向かい合っていて音の逃げ場がないので、自分が思うより遠くまで届きます。会話が禁じられているわけではなく、声の大きさの問題です。

混んできたら、リュックは背中から下ろして前に抱えるか、足元の床に置きます。背負ったままだと、自分からは見えない後ろで人に当たり続けることになります。イヤホンからの音漏れも同じで、本人にだけ聞こえていません。

ごみは持ち歩くことになる

屋外にごみ箱がほとんどありません。歩きながら探しても見つからないので、小さな袋を1枚かばんに入れておき、宿かコンビニまで持ち帰るのがいちばん早い解決です。

捨てられる場所には、たいてい分別の表示があります。「缶・びん・ペットボトル」「プラスチック」「紙ごみ」のように絵と文字で分けて書かれているので、それに合わせて入れます。自動販売機の横の箱は、その場で飲んだ容器のためのものです。持ち歩いてきたごみを入れる場所ではありません。

缶・びん・ペットボトル、プラスチック、紙ごみに分かれた3つのごみ箱
捨てる場所には分別の表示がある。表示に合わせて入れる

公衆トイレ

駅、公園、コンビニ、商業施設のトイレは、たいてい無料で使えて、紙も備えられています。この状態は、掃除する人と、使う側の両方で成り立っています。

トイレットペーパーや石けんは持ち出さない。便器に流すのは備え付けの紙だけにする。洗面台を使ったら、こぼれた水を拭いておく。出るときに「入ってきたときと同じ状態か」を一度見れば、それで足ります。

仕切りと洗面台が清潔に保たれた公衆トイレ
無料で使えて紙もあるのは、利用者側の協力が前提になっている

宿泊施設

ホテルも旅館も、壁や床が薄いことがあります。旅館の和室は襖や障子で仕切られているだけのこともあり、隣室との間に壁がありません。夜の廊下での立ち話、部屋でのビデオ通話、スーツケースのキャスター音は、思っているより広く伝わります。

大浴場やラウンジは共有のスペースです。声の大きさに加えて、撮影してよいかを掲示で確かめてください。浴場は服を脱ぐ場所なので、カメラを持ち込まないほうが確実です。

旅館の和室で窓辺に座る2人の宿泊客
襖や障子で仕切られた部屋では、夜の音が隣まで届く
迷ったときの目安は「自分が出たあと、次の人が同じ状態で使えるか」です。ごみも、トイレも、部屋も、これ一つで判断できます。守らなくても罰はありませんが、守れば、その場所は次の人にも同じ形で残ります。

マナーは「ルール」と「お願い」の間にある

食事の席での作法は和食入門に、困ったときの連絡先は緊急時に困ったらにまとめています。

迷ったら、現地の掲示を読むのがいちばん確実です。いま日本の観光地で問題になっていることの多くは、掲示という形でその場に書かれています。それが法律なのか、条例なのか、地元のお願いなのかまでは書かれていないことが多いですが、書かれている以上、そこには守ってほしい理由があります。判断に迷ったときは、そこが誰の場所かを考えてください。

情報源

よくある質問

歩きながら食べるのは禁止ですか?
禁止ではありません。これを禁じる法律も、罰則のある条例もありません。よく引かれる鎌倉市の条例も、市自身が「食べ歩きを禁止するものではない」「罰則はない」と説明しています。
エスカレーターは片側を空けるべきですか?
空けなくてかまいません。埼玉県と名古屋市は条例で立ち止まっての利用を求めており、鉄道各社も全国で「歩かず立ち止まろう」と呼びかけています。「東京は左、大阪は右」は現在の公式の呼びかけと逆です。
祇園の「罰金1万円」の看板は本当に払うのですか?
地元の協議会が私道に掲げた掲示で、市の条例に基づくものではありません。罰金は国か自治体でなければ科せないため、法的に徴収できるものではありません。ただし私有地に無断で入ること自体は民事上の問題になりえます。
路上でたばこを吸えますか?
全国一律の禁止はありませんが、自治体ごとに条例があります。千代田区は区内全域、大阪市も2025年1月27日から市内全域が禁止で、いずれも加熱式たばこを含み、過料が徴収されます。
チップは渡すべきですか?
必要ありません。日本政府観光局は「習慣ではない」と説明しています。支払うのは請求書に書かれた金額です。

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